【書評】『サピエンス全史 人類の構造と人類の幸福 上』流行りは過ぎてしまったが読んでおいてよかった本

6月 20, 2021

とにかく日本語版が出た時からずっと話題になっていて、いつ読もうかと思ってたのですがなんとなく手が伸びるまではいかず…というのが数年続いてしまっていました。

ただ、ちょうどビジネス本でも小説でもない本が読みたいモードになったことで、やっとこの本を読みはじめました。なんやかんやでやっぱり話題になるだけありますね。読んでよかった本です。

概要

なぜ我々はこのような世界に生きているのか?

ホモ・サピエンスの歴史を俯瞰することで現代世界を鋭く抉る世界的ベストセラー! 

『サピエンス全史』商品紹介から
著者紹介
ユヴァル・ノア・ハラリ
ユヴァル・ノア・ハラリ

ユヴァル・ノア・ハラリ
1976年生まれのイスラエル人歴史学者。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得し、現在、エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えている。軍事史や中世騎士文化についての3冊の著書がある。オンライン上での無料講義も行ない、多くの受講者を獲得している。

目次

第1部 認知革命
 第1章 唯一生き延びた人類種
  ・不面目な秘密
  ・思考力の代償
  ・調理をする動物
  ・兄弟たちはどうなったか?
 第2章 虚構が協力を可能にした
  ・虚構が協力を可能にした
  ・プジョー伝説
  ・ゲノムを迂回する
  ・歴史と生物学
 第3章 狩猟採集民の豊な暮らし
  ・原初の豊な社会
  ・口を利く死者の霊
  ・平和か戦争か?
  ・沈黙の帳
 第4章 史上最も危険な種
  ・告発のとおり有罪
  ・オオナマケモノの最後
  ・ノアの方舟
第2部 農業革命
 第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
  ・贅沢の罠
  ・聖なる介入
  ・革命の犠牲者たち
 第6章 神話による社会の拡大
  ・未来に対する懸念
  ・想像上の秩序
  ・真の信奉者たち
  ・脱出不能の監獄
 第7章 書記体系の発明
  ・「クシム」という署名
  ・官僚制の驚異
  ・数の言語
 第8章 想像上のヒエラルキーと差別
  ・悪循環
  ・アメリカ大陸における戦争
  ・男女間の格差
  ・生物学的な性別と社会的・文化的性別
  ・男性のどこがそれほど優れているのか?
  ・筋力
  ・攻撃性
  ・家父長制の遺伝子
第3部 人類の統一
 第9章 統一へ向かう世界
  ・歴史は統一へ向かって進み続ける
  ・グローバルなビジョン
 第10章 最強の征服者、貨幣
  ・物々交換の限界
  ・貝殻とタバコ
  ・貨幣はどのように機能するのか?
  ・金の福音
  ・貨幣の代償
 第11章 グローバル化を進める帝国のビジョン
  ・帝国とは何か?
  ・悪の帝国?
  ・これはお前たちのためなのだ
  ・「彼ら」が「私たち」になるとき
  ・歴史の中の善人と悪人
  ・新しいグローバル帝国

『サピエンス全史』目次より

書評

概要

概要としては、著者が主張しているのは人類であるホモ・サピエンスが現在繁栄しているのは3つの重要な革命、「認知革命」・「農業革命」・「科学革命」があったからというのが理由、というのを軸に話が説明されていきます。

上巻では主に「認知革命」「農業革命」について説明されているのですが、元々読む前に想像していた内容からするとかなり根本から揺さぶりがかかる内容で、みんなの常識を伏線にそれをどんどん覆していくというサスペンス的な読み方もできるような本になっています。

感想や紹介

発売から数年経っているのもあり、ある程度表面的な概要はすでに知っている状態で読み始めていました。ただ、改めてちゃんと読み返してみて初めてわかるような内容もあり、それが結構衝撃の強い内容、かつその後の現代に続く人類の繁栄につながっていくのもあり、学術書というよりはノンフィクションとフィクションの間のような感じで読みやすかったです。

もちろん他でも色々と言われているような言い回しがくどいとか、結局言っている内容はそれほど深くはないとか、ネガティブな意見はそのまま自分も感じるところはありましたがg、それを差し引いても書籍としてよくできていると思いました。

学術的にどういう評価なのかは差し引いて、ちょっとでも興味が合ったら一旦読んでみてもいいと思います。

心に残ったフレーズや内容

虚構が協力を可能にした

いわゆる神話というもので部族の心を一つにして協力体制を作れたというのは、すごく意外でかつ、今でも会社などでミッション・ビジョン・バリューという形で心を一つにするというやり方をとっていることから、当時からこの流れが続いているんだなと感じました。

狩猟採集民の豊な暮らし

これも結構驚いた内容。農耕民族は栽培した穀物などに依存してしまうので、栄養失調になりやすかったり天候不順に弱い。対して狩猟採集だと採集するバランスさえ間違えなければ旬の様々な食材を選んで食べられるので栄養バランスがよく、さらに天候不順になって特定の食材がダメでも他の食材を選んだり、そもそも住む場所を変えればいいということで効率が良かったという話。

実は動物としてのホモ・サピエンスにとっては農耕よりも狩猟採集の方が良いというのは結構目から鱗でした。ただ、現在のような文明を築くには、定住があり人口を増やしやすい農耕の方が都合がいいということで、知的生物に進化するには一見効率の悪い農耕をする必要があったというのも興味深かったです。

農耕がもたらした繁栄と悲劇

1万2000年前に起こった農業革命というのが1番の衝撃でした。

上記でも書いているように実は生物としての効率性で考えると狩猟採集の方がいいにも拘らず、結果として現代まで農耕が主流となっている点で、実は人類が特定の穀物を主食にして繁栄を築いてきたはずが、実は穀物の奴婢として使役されていたかもしれないというのは、SF映画でも使われそうなテーマだなと、一番ゾクっと来た部分でした。

今後AIが発展していく中で、シンギュラリティ後の世界ももしかしたらそういうAIを使っていると思いつつ実はAIに使われている、みたいなことにもなりかねないなと思いました。

読んだ方がいい人

科学系が好きな人だったり、歴史や考古学が好きな人にはおすすめだと思います。

反面、結構ガッツリ学術書のつもりで読んでしまうとそっちの書き方ではないのでちょっと難しいとは思いますが、普通の科学系読み物として読めばすごく面白い本だと思いました。

評判に偽りなしで面白い本でした!おすすめ!

ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田裕之 (翻訳)